マヨルカ島を経由してバルセロナに入り、ガウディが建築に関わっていることで評判のグエル公園に足を運んだ。マヨルカでは所持金が限りなくゼロに近づき、果たして自分はどうやって祖国に還るつもりなのだろうかとお花畑を彷徨っていた(途方に暮れていた)ら、バルセロナ在住の日本人の方からの奇跡的な連絡が舞い込んで九死に一生を得た。
「坂爪さん、もしよろしければバルセロナで講演会をしてみませんか??マヨルカからの航空券代金などは負担します。バルセロナ在住の友達にも声をかけてみたいと思っているのですが、まだ宿泊先などが決まっていないようであれば、自宅のソファを使っていただいても構いません」
家のない生活をはじめた当初は、数か月後の自分がまさかバルセロナで講演をすることになるとは思ってもみなかった。ちょうど同じタイミングで、たまたまバルセロナに来ている日本人女性のRさんから「会ってお話できませんか?」と連絡をいただいたので、いま、iPhoneをすられて傷心中のK氏と三人でテーブルを囲んで話している。
1・金がなくなってからの方がいいものを食ってる。
Rさんは、秋田県出身の私と同世代の女性で、およそ10か月前から欧州で旅を続けている。欧州では、労働力を提供する代わりに宿や飲食を提供してもらう様々なシステムがあり、Rさんはそのシステムを駆使して生活を続けている。
(それっぽくインタビューに答える私)
坂爪「今回はご連絡をいただきありがとうございます。メールでは『一緒にご飯でも食べながら話しましょう』とか格好つけたことを言ってしまいましたが、諸事情により、私とK氏の所持金が二人で6ユーロとかしかなくて、なので、誠に申し訳ありませんが、そこら辺のベンチで話すとかでもいいですか??」
Rさん「いえいえ、こちらこそお時間を作っていただいてありがとうございます。そう思って、というのも失礼かもしれませんが、今回は私がお二人の食事代をご負担するので、何処かで美味しいものを食べましょう」
坂爪「えっ!」
K氏「えっ!」
坂爪&K氏「いいんですか!」
Rさん「もちろんです」
K氏「ありがとうございます…なんだか、我々マヨルカ島でも様々な方々のご好意に授かっておりまして、謎にお金がなくなってからの方がいいものを食っているという不思議な状態におかれておりまして…誠にかたじけないです」
Rさん「二人でいるときは何を食べているのですか??」
坂爪「やすくて大きなパンとか…」
K氏「2ユーロの固いやつとか…」
2・最弱は最強なのか?ー 赤ちゃん最強説。
誤解を恐れずに言えば、自分が家も金も仕事もない状態でも死なずに生きてこれたのは、秀逸な言語化能力や前向きな行動力があったからでもなく、単純に「かわいかったから」なんじゃないだろうか、みたいなことを思う。かわいいは最強の武器で、極論、かわいければ何をしても許されるのだ。
— 坂爪圭吾 (@KeigoSakatsume) 2015, 9月 17
Rさん「わたしもこの旅で、様々な方から与えてもらう体験をさせてもらってきたので、こうして受け取ってもらえることはとてもうれしいです」
坂爪&K氏「ほんとうにありがとうございます」
Rさん「それにしても、お金がなくなってからの方がいいものを食べているというのは面白いですね」
坂爪「うん。そうなんです。自分たちでご飯を食べていたときはゴミみたいなものばかり食べていて、たまにパエリアとかを食べては『奇跡の味だ!』とか言っていたのですが、ここ数日、我々の所持金が皆無に近づくほどに、謎に豪華な料理を食べることができていることがとても不思議で、ありがたくて」
Rさん「それは坂爪さんが受け取り上手だからなんじゃないですか??」
坂爪「どうなんだろう…」
(比較的早い段階で調子に乗り始める私)
坂爪「最近は、赤ちゃん最強なんじゃないだろうか説のようなことを考えることが多くて、赤ちゃんってなんにもできないくせに、なんでも受け取ることができているというか、最弱にして最強である赤ちゃんの存在が興味深くて」
Rさん「赤ちゃんですか」
坂爪「私たちも、所持金が少なくなるほどに、食べているものの質が明らかに向上しているのです。この現象はなんだ、と言いますか、ひどく抽象的な話ではありますが『最弱になるほどに最強になる』感覚を覚えているのです」
3・生き残れたのは「かわいい」から??
たとえば、私は岡本太郎や甲本ヒロトや村上龍などが好きで、彼らを見ていると尊敬だけではない「圧倒的かわいさ」を感じる。同時に、このひとは素敵だなあとは思うけれど、別にかわいさは感じないひともいる。この差は何か。かわいいは「可愛い」だから、愛が可能ということなのだろうか。
— 坂爪圭吾 (@KeigoSakatsume) 2015, 9月 17
坂爪「この感覚をうまく伝えることは非常に難しいのですが、私が家がなくても金がなくても色々なものがなくても死なずに生きてこれたのは、別に言語化能力があった訳でも、前向きな意志や行動力があった訳でもなくて、単純に『かわいかった』からなんじゃないのかなとか思うことがあって」
Rさん「はい」
坂爪「こんなことを自分で言うのは愚の骨頂だと承知で話すのですが、かわいさとか、ユーモラスな存在というか、真面目なだけではないくだけた部分といいますか、そういうものがとても大切であるような気がするのです」
(「かわいい」について熱弁する私)
Rさん「なるほど」
坂爪「いばやを一緒にやっているMAYUも、かわいいは最上の概念であり、かわいければ私はそれを使いたいけど、かわいくなければ使いたい気持ちが起こらないということを前に話してくれたことがあって」
Rさん「はい」
坂爪「誤解を恐れずに言うと、ダサいひと(同じかわいいを共有できないひと)とは同じ時間を過ごせない、正しくても、どれだけ便利でも、かわいくなければかわいくない!といいますか、アトモスフィアかわいいが非常に大切であるといいますか」
Rさん「言わんとしていることは、なんとなくわかる気がします」
4・かわいくなければ生きていけない。
可愛い人は不完全なことを余白として肯定している…名言!! https://t.co/n56aOQQUpL
— 坂爪圭吾 (@KeigoSakatsume) 2015, 9月 17
坂爪「かわいいっていうのが、なんかものすごい大切な気がするのです」
K氏「どうすれば、ひとはかわいくなれるのでしょうか??」
坂爪「わかりません」
Rさん「かわいいひとには、素直とか、正直とか、なんというか『そのまんま』で生きている感じがありますよね」
坂爪「それは確かに!なんか、私は素敵なひとを見ると『良くぞそのままで生きていてくれた(そしてこれからもそのままでいて欲しい)』という気持ちにならます。なんというか、そのままであることを良くぞその年齢になっても維持し続けてくれたという、積み重ねられた(死守され続けている)かわいさみたいなものに、私は強く惹かれるのです」
(Tシャツの下に着ているのは『着るマッサージ』でお馴染みの逸品・SKINS)
Rさん「ツイートにもあった『可愛い人は不完全による余白を肯定している』というのも、興味深い指摘ですね」
坂爪「多分、その人がそのままその人である限り、その人はかわいくなるような気がします。根本的にみんなかわいくて、だけど、何かしらの要因が関係して『かわいいままではいられなくなった』あたりから、なんか変な感じになるのだと思います」
5・自分の身体は自分のものでもあり、みんなのものでもある。
Rさん「それにしても、坂爪さんはよく金もない状態で不安になったりしませんね。何かこう、根底から湧き上がる『大丈夫だ感』みたいなものがあるのですか??」
坂爪「うーん」
K氏「ぼくは、この旅でそれを痛感しました。最初、マドリード辺りで金がなくなった時は『死ぬ!』とか思っていたのですが、現にいま、どうにかなっている自分を見ていると『意外とどうにかなるんだな』ということが肌感覚でわかりました」
坂爪「確かに!」
K氏「最初はやばかったですけど」
坂爪「何か、別に普段から『自分は大丈夫だ』とか思っている訳ではないのですが、最悪サグラダファミリアの前で顔に泥を塗ってダンボールに日本語で『誰か助けて…』とか書いて掲げておけば、必ず誰かが声をかけてくれるだろう、そして、その瞬間から誠心誠意を込めて事情を話せば、1ユーロくらいはもらえるだろう。これを数回繰り返せば、別に死ぬことはないだろうみたいなことは常に何処かで思っています」
(買ってもらったサングリアを飲みながら話を聞く私)
Rさん「わたしもそれと似たようなことは思うようになりました」
坂爪「アイムジャパニーズ、ユアージャパニーズ(私は日本人、あなたも日本人)マイボディ、イズ、ユアボディ(私の身体はあなたの身体)ユアマネー、イズ、マイマネー(あなたのお金はわたしのお金)みたいな呪文を唱えると思います」
6・今回のホームランはK氏の「泊めてくれない??」
坂爪「今回はK氏がホームランをかっ飛ばしたんです」
Rさん「ホームランですか」
坂爪「うん。マヨルカで、K氏が道に迷って尋ねたスペイン人が日本大好きで、簡単な日本語が話せる18歳の男の子だったんです。で、その子が道を教えてくれて、最後まで一緒に歩いてくれて、そして、挙げ句の果てには夕食までご馳走してくれたんです」
Rさん「優しいですね…!」
坂爪「それで、我々完全にお金がなくって、あとは自己責任でそれぞれで行動していこう(生き抜いていこう)ということになっていたので、K氏も必死で、それでその男の子に突然日本語で『泊めてくれない??』って話しかけたんです」
Rさん「おおー!」
坂爪「一緒にご飯を食べているときに、ほんとうに、いきなりK氏がそんなことを言うものだから、俺も『唐突すぎるだろ!!』って爆笑してしまって。そして、驚いたことにその男の子も、即答で『いいよ』とか言うのです」
Rさん「おおー!」
坂爪「それで、俺もまじかってなって、結果的にK氏はその男の子の家に二泊することになったんだよね??」
(氷が溶けちゃう前にサングリアを飲みたいのでK氏に話を振る私)
K氏「はい、そうです。その男の子はダビッド君というのですが、その家がオーシャンビューの豪邸で、お母さんもほんとうにぼくに良くしてくれて、車で海や山に連れていってくれたり、手料理を食べさせてくれたり、その度に喜ぶぼくを見てお母さんはどんどんぼくに良くしてくれて、ぼくは『ああ、愛されてしまっている』と強く感じて幸せでした」
〜 回想 〜
(K氏の幸せ三連発)
7・空港で眠ると布団で眠れる喜びが増幅する。
Rさん「坂爪さんも誰かのご自宅に泊まったりしたのですか??」
坂爪「ぼくはすぐにひとりきりになりたがってしまうので、明日、バルセロナ在住の方の家に泊めていただく以外では、基本的にはホテルに泊まったり空港で寝たりしていました」
Rさん「空港とはバルセロナ空港ですか??ちゃんと寝れましたか??」
坂爪「はい、バルセロナ空港です。治安に問題はなく、早朝の4:30頃に空港職員から『横になるな』と叩き起こされた以外は快適な睡眠を維持することができました」
(幼き日の私。床屋の両親のもとに、三人姉弟の末っ子として生まれる)
Rさん「つらくないのですか??」
坂爪「野宿もやってみれば出来るもので、コツは、好きな音楽を思い出すことにあると思います。わたしの頭の中では謎に川本真琴の『1/2』が流れ続けていて、妙にハイテンションでした」
Rさん「そうですか」
坂爪「あと、これは家のない生活をはじめてから痛感したのですが、野宿のあとの布団は最高だということです。野宿しているまさにその瞬間はつらいものかもしれませんが、つらければつらい分、翌日布団で眠れることの喜びは増幅します。多分、単純に裏表なんだと思います」
8・最大の目的と最大の成果は、往々にして変化をする。
Rさん「スペイン滞在のこの一週間はどんな感じでしたか??」
K氏「最初はサッカーの試合を見ることが最大の目的だったのですが、そこではメッシやネイマールのゴールも見ることができてかなりラッキーなことだったとは思うのですが、結果的に一番思い出に残ったのはマヨルカ島でした」
坂爪「最高だったよね」
K氏「最大の目的と、最大の成果は違うものになるみたいです。結果的に、ぼくは友達にサッカーを見ることよりもマヨルカ島に行くことを勧めるだろうと思います」
(幼き日の私。当時から、生きていることの不思議と驚きに包まれていた)
坂爪「何かをやり始める理由と、何かをやり続ける理由って変わるよね」
K氏「変わりますね」
9・特別なことは何もしないでいいから、風を浴びるためだけに海外に行く。
Rさん「なんだか、ここでこうして三人で話しているということが不思議ですね」
坂爪「そうですね」
K氏「スペインは夜の八時まで、平気で外も明るいですもんね。テラス席も多いし、こうして外で風を浴びているだけでも気持ちがよいですよね」
Rさん「そうですね」
坂爪「こういう時の感覚って、なかなか日本では感じることが難しい感覚だと思うんだ。別に無理をしてまで海外に行く必要はないとは思うけれど、何をするでもなく、ただ『風を浴びる』ためだけに海外に足を運ぶのも、悪くないことだと思うんだ」
(幼き日の私。知り合いから「全然変わってないですね!」と言われた時は嬉しかった)
K氏「そうですね」
坂爪「なんかさ、これはクアラルンプールでスイカジュースを飲んでいる時にも強く思ったんだけど、みんなで幸せになろうぜ、みたいな気持ちになるよね」
10・iPhoneをすられても、所持金が少なくても清々しく生きる。
Rさん「気がついたら長い時間話し込んでしまいましたね。今日は時間を作っていただきありがとうございました」
坂爪「いえいえ、こちらこそありがとうございました。私とK氏のふたりではクソみたいな時間しか過ごすことができないので、非常に有意義で楽しい時間になりました」
K氏「ぼくもすごい楽しかったです」
Rさん「坂爪さんが話しやすいひとで良かったです」
(憂いを帯びた微笑みを投げかける私)
坂爪「今日の結論としては、赤ちゃんこそ最強であると。最弱こそ最強であり、意外と人生はどうにかなるのだから、気持ちの良い風を浴びていこうぜ、と」
Rさん「ありがとうございます」
坂爪「清々しくいきたいですよね」
Rさん「清々しくいきたいですね」
K氏「清々しくいきましょう!!」
自分が嫌だと思うことには、はっきりと嫌だと言う。同じように、自分が好きだと思うことに対しては、周囲の人間が何と言おうが「自分はこれが好きだ」と宣言する。周りがどうあれ自分自身は、言いたいことを言う、やりたいことをやる、それだけのことで人間は清々しく生きることができる。
— 坂爪圭吾 (@KeigoSakatsume) 2015, 9月 17
坂爪圭吾 KeigoSakatsume《ibaya》
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