いばや通信

ibaya《いばや》共同代表・坂爪圭吾のブログです。

奇跡の中を生きている。

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熱海生活も6日目にはいった。最初の数日間は「何もやらなくていい」ということに軽い戸惑いを覚えてしまっていた。多分、何かをやらなければいけない(何かをやらなければ自分には価値がない)という固定観念に囚われていたのだと思う。三日目以降辺りからになるのだろうか、漸くリラックスが出来るようになり、自分の中でも料理を楽しんだり、自然の景観を眺める余裕も生まれてきた。


昨日は、昼間に神奈川県の平塚から、ひとりの女性が我が家まで遊びに来てくれた。書店員を務める彼女は「私も本が大好きなので、何か力になれることがあれば言ってください」と、四冊の本を持参して来てくれた。時を同じくして、また別の女性からLINEで連絡が来た。そこには「私は東京に住んでいるのですが、今日、熱海までお邪魔してもいいですか?」と書いてあった。何も予定がなかった私は「いつでも遊びに来てください」と返信をした。

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平塚から来てくれた女性とは、これからやろうとしている循環型図書館のシステムを一緒に考えたり、お互いに本を読んでいたり、各々、自由に好き勝手な時間を過ごしていた。しばらくしてから、私の携帯が鳴った。電話に出ると、東京から来ると連絡をくれていた女性からだった。「近くまで来ていると思うのですが、道がわからなくて」と話す彼女を迎えるために、私は、適当な目印のある場所に向かった。

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平塚から来てくれた女性は、突然の来客にも嫌な顔ひとつせず(別の女性が来るということをほとんど何も話していなかった)、温かい笑顔で迎えてくれた。東京から来てくれた女性は、今日、旦那と喧嘩をしてそのまま車で家を飛び出してきたのだと言う。いまはこどもも冬休みで、家を出るならいましかないと思ったのだと言う。女性は「前から坂爪さんには一度お会いしてみたいとは思っていたのですが、まさか、自分が車で熱海まで来れるとは思ってもみなかったので、自分にもやればできることがあるんだって、それがわかっただけでもここに来てよかったです」と話してくれた。

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私達は、三人でこたつを囲んだ。こたつを囲んで早々、私は、無性に台所の掃除をしたくなってきた。結果的に、初対面の二人を置き去りにして席を外した。自分勝手に過ぎるだろうかとも思ったけれど、時折、二人の笑い声が台所まで聞こえてきたので「まあ、大丈夫だろう」と思った私は、約一時間、ひたすら台所の掃除に精を出していた(実はこっそり自分の食事もつくっていた)。

結果的に、東京から来てくれた女性と私は、ほとんど会話をすることなく終わった。しかし、彼女の顔は清々しかった。平塚から来てくれた女性が持って来てくれた四冊目の本は、東京の女性が受け取ることになった。本のタイトルは『傷口から人生』だった。東京の女性が、一目見た瞬間に「これは私のための本だ」と思ったのだと言う。生きていれば、いろいろなことがある。東京から来てくれた女性は、結局、東京には戻らず「これから車で名古屋まで行ってみようと思います」と告げて、そして、私達三人は別れた。


日付が変わって今日、午前中に三人の男性が我が家に遊びに来てくれた。ひとりは横浜から、ひとりは埼玉から、ひとりは浜松から来てくれた。それぞれが初対面同士で、たくさんの本と、たくさんの差し入れをいただいた。私達は珈琲を飲みながら、会話をしたり、差し入れのリンゴや笹かまやお菓子を食べたり、各々が本を読んだりしながら時間を過ごした。

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浜松から来てくれた男性が「伊豆山でこれを読むのもいいかなと思って」と、川端康成伊豆の踊子を持参してきてくれた。私は、過去に読んだはずのこの本の内容を完全に忘れていたので、再び読み直していた。食器を通じて料理が映えるように、環境を通じて内容が映える作品がある。およそ30ページの非常に読みやすい(そして非常に素晴らしい)内容なので、我が家に来てくれたひとにはこの場所で読んでいってもらいたいなと思った。

これから、この場所をどのように生かしていくのかという具体的な内容は何も決まっていない。いまは「無理矢理にでも誰かに読ませたい本」を来てくれたひとに持参していただき、無償で、この場所に来てくれたひとに回している。返却の必要は皆無で、自分が読み終わった後には次のひとに回してもらえたらそれでいいと思っている。そして、一冊の本を通じて「それがなければ決して起こることのなかった新しい形でのコミュニケーション」が発生すればいい、と思っている。

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しばらくは試行錯誤の連続になるのだろう。頭で考えるばかりではなく、新しい何かを試してみよう。失敗を歓迎しよう。東京から来てくれた女性は、いま、何処で何をしているのだろうか。名古屋には無事に到着したのだろうか。旦那さんとは仲直りできたのだろうか。生きていればいろいろある。いろいろあるけれど、おさまるところにおさまるようにできているのだと思う。私達は、多分、経験をするために生きている。失敗も成功も、悲しみも喜びも、苦味も甘味も、噛み締める程に味わいのあるものになる。奇跡を求めるのではなく、既に、奇跡の中を生きているのだということ。他人の噂話ではない、自分の経験を噛み締める営みこそが「生きる」ということになるのだろう。


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人生は続く。

静岡県熱海市伊豆山302
坂爪圭吾 KeigoSakatsume
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