いばや通信

ibaya《いばや》共同代表・坂爪圭吾のブログです。

置き去りにしてゆくもの。

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くるりのハイウェイを聴きながら街を歩く。その歌詞に「飛び出せジョニー気にしないで、身ぐるみ全部剥がされちゃいな」とある。好きな音楽に触れると、心が踊る。ああ、そうだよなあという気持ちになる。何もかもを失ったとしても、別に、構うことはないのだ。誰にも奪うことのできないものは確実にあって、仮に、命まで失うことがあったとしても、それもまたよし。良寛さんも「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候、死ぬる時節には死ぬがよく候。是がこれ災難をのがるる妙法にて候」と言っている。

 

その時は、その時だ。

 

おはなを配り続ける日々を過ごしている。恵比寿でお会いした埼玉県在住の男性は、数年前、高知県で開催された私のトークイベントにはるばる埼玉県から遊びに来てくれた。男性曰く「実は、坂爪さんのお話を聞いた後に、私は、高知県の桂浜に身投げをするつもりでした。でも、家も金も仕事もなくても楽しそうに生きているあの頃の坂爪さんを見て、なんだかいろいろなことがどうでもよくなり、自殺をやめました。だから、坂爪さんにはそんな気はまるでないと思いますが、私にとっては命の恩人なんです」と話してくれて、私は「なんと!!!」と吃驚仰天をした。 この日は、なんと、男性のお母様も同席をしてくださり「本当にありがとうございます」と言っていただいたものだから、こちらこそ本当にありがとうございますと答えた。空間に、胸に、清々しい風が吹いた。

 

おはなをあげに、いかんばなんね。

呼ばれた場所に向かい、そこで出逢う方々におはなを配る。ただそれだけのことを、2月14日(火)までやることにした。現在は熱海にいて、明日は東京方面、明後日からは北陸経由で関西&四国方面に向かう。様々な方々と出逢う。今日は神奈川&東京方面に、明日は富山に、明後日以降の予定も宿も(14日に愛媛県に行く以外は)何も決まっていない。声がかかればそこに向かい、声がかからなければ適当な場所を漂白する。簡易野宿道具を鞄に詰めているものの、この時期、寒い空の下で野宿をしたいとは思わない。

 

【イベント詳細】おはなをあげに、いかんばなんね。

 

自分が旅人であることを思い出す。

3月1日(水)に奈良市内でお話会を開催していただく展開になった。当日のテーマは『健康』だと言う。私は、健康という言葉を耳にするたびに「健康で長生きをすることよりも、健康な状態で『何をする【どのように生きるのか】の方が、何倍も重要なのではないだろうか」と思う。生にしがみつくことは善いことになるのだろうか、死ぬということは悪いこと・悲しいこと・忌避すべきものになるのだろうか。先日、東京の阿佐ヶ谷で見た『ラサへの歩き方』という映画に強い感銘を受けてからというもの、チベット仏教の死生観に興味を抱くようになった。現在読んでいる「チベットの生と死の書」には、こんなことが書かれている。

 

チベット語で肉体のことを〈ルュ〉という。これは「置き去りにしてゆくもの」を意味する。旅行鞄のようなものだ。〈ルュ〉と言うたびに、チベット人は自分が旅人であることを思い出す。この生の肉体に仮の宿をとっているだけの旅人。そのためチベットの人々は、外的環境を快適にしようとしてすべての時間をそれに費やすようなことはしてこなかった。食べるものがあり、着るものがあり、頭の上に屋根があれば、それで十分だった。わたしたちが今のままのやり方をつづけ、生活環境の向上に夢中になっていると、それは無意味な気散じとなり、それだけで終わってしまうことになりかねないのだ。正気の人間が、ホテルを予約するたびに、こまごまとその部屋の模様替えを考えたりするだろうか。わたしは次にあげるパトュル・リンポチェの短い警句を大変気に入っている。

 

年老いた雌牛のたとえを覚えておけ

雌牛は納屋で眠れさえすれば満足なのだ

もちろんおまえは食べなきゃならん、ねむらなゃならん、糞しなきゃならん ー

こればっかりは避けられぬ ー

だが、そこから先はおまえの知ったことではない

 

現代文化がなしとげた最大の成果は、輪廻の売り込みと不毛な気散じだったのではないかと、わたしはときどき思う。わたしには現代社会がお祭りに見える。真理から遠ざかってゆくもの、真理を生きがたくするもの、真理の存在すら信じがたくするもの、そういったもの一切のお祭りに見える。それらはすべて、ひたすら生を崇めたてる文化から発したものだ。だが実は、この文化は真の意味に飢えているのだ。人々を幸せにすることを約束しつづけているが、実は真の喜びの源へ向かう道をふさいでいるのだ。ー ソギャル・リンポチェ『チベットの生と死の書』【講談社

 

先日、ある看護師の方と話をした。職業柄、ひとの死に目に触れる機会も多いと言う。たくさんの人々が亡くなる姿を目にしながら、看護師の方は「そのひとが死ぬ時に、そのひとがどのように生きてきたのかが出る」と話す。死に方は、生き方になるのだろう。私は思う。死を避けるように・死ぬことから目を背けるように生きるのではなく、死を受け入れるように・死ぬことと親睦を深めるように生きる、大袈裟な言葉で言えば『自分自身の死生観を培うこと【死ぬことに対する不安や恐れを軽減すること】』が、最大の健康法になるのではないだろうか。

 

【イベント詳細】坂爪圭吾さんと「からだとこころ」のお話会

 

星の王子さま

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今回の「わたり文庫無料郵送の一冊」は、サン・テグジュペリ著作星の王子さま』です。こちらの本は、埼玉県在住の女性が熱海に贈ってくれた本(私も大好きな一冊)です。ご希望される方は何かしらの方法で坂爪圭吾までご連絡ください。御当選(?)された方には70万時間以内に折り返しご連絡いたします。 

 

※※※ こちらの本は、広島県にわたりました ※※※

 

 「夜になったら星を見てね。ぼくの星は小さすぎて、どこにあるのか教えられないけど。でもそのほうがいいんだ。ぼくの星は、夜空いっぱいの星のなかの、どれかひとつになるものね。そうしたらきみは、夜空ぜんぶの星を見るのが好きになるでしょ・・・ぜんぶの星が、きみの友だちになるでしょ。今からきみに、贈り物をあげるね・・・」

 

そして王子さまは、笑った。

 

「きみが星空を見あげると、そのどれかひとつにぼくが住んでるから、そのどれかひとつでぼくが笑ってるから、きみには星という星が、ぜんぶ笑ってるみたいになるっていうこと。きみには、笑う星々をあげるんだ!」

 

王子さまは、楽しそうに笑った。

 

「そのうち悲しい気持ちがやわらいだら(悲しい気持ちは必ずやわらぐよ)、ぼくと知り合ってよかったって思うよ。きみはずっとぼくの友だちだもの。これからもぼくと一緒に笑いたくなるよ。だからときどき窓を開けて、そんなふうに気晴らししてね・・・きみが夜空をながめて笑ってるのを見たら、みんな驚くだろうね。そしたらこう言ってやるんだ。『そうなんだよ、星空には、いつも笑わされちゃってさ!』って。みんな、きみの頭がおかしくなったって思うかな。ぼくがきみに、いたずらしてるみたいになるね・・・」

 

そして王子さまは、また笑った。

 

サン・テグジュペリ星の王子さま』【新潮文庫

 

【参考HP】わたり食堂・わたり文庫

 

置き去りにしてゆくもの。

チベットの生と死の書の中に「無常を友にする」という表現があり、私は、ああ、いい言葉だなと思った。たとえば、私は、海が好きだ。空が好きだ。花が好きだ。しかし、道端に咲く花を見て「絶対に枯れるな!」と願うこともなければ、流れる雲を見て「止まれ!」と願うこともない。万物は流転をする。季節は巡り、雲は流れ、感情は移り変わる。いつまでも同じままでいることはできない。だからこそ、私たちは「いまという瞬間を大切にしよう」という感覚を抱き、いま、この瞬間にそのものと出会えたことに喜びを覚える。

 

昔のひとは美しいと書いて「かなしい」と読み、愛しいと書いて「かなしい」と読んだ。きっと、すべての美しいものは悲しみを内包しているのだと思う。それは「永遠には見ていることができない」という悲しみ【美しみ・愛しみ】で、だからこそ、私たちは「いまという瞬間を大切にしよう」という感覚を抱く。いつまでも生きていることができるのならば、すべてから終わりの瞬間が奪われたとしたら、何に慈しみを覚えることができるだろうか、何にありがたみを覚えることができるだろうか、何を望み、何を願い、何を大切にしたいと思えるだろうか。終わりのないものに美は宿るのではなく、終わりがあるからこそ瞬間は輝く【死があるからこそ生は輝く】と、そんな風に言えるのではないだろうか。

 

くるりのハイウェイの歌詞は、その後に「やさしさも甘いキスもあとから全部ついてくる」と続く。全部あと回しにしちゃいな。勇気なんていらないぜ。ぼくには旅に出る理由なんてなにひとつない。手を離してみようぜ。つめたい花がこぼれ落ちそうさ。私は、音楽を聴きながら歩く。歩きながら「いい歌だな」と思う。足取りは軽くなり、目に映るものすべての輝きが増しているように感じる。そして、自分を旅に出るものではなく「既に旅人であるもの」だということを思い出す。好きな海があり、好きな空があり、好きな花があり、そして、私には好きな音楽がある。良寛さんは、晩年に「かたみとて何か残さむ春は花山ほととぎす秋はもみぢ葉」と歌った。旅は終わっても、この、生命の歌は続くのだと思う。 

 

 

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人生は続く。

 

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