いばや通信

ibaya《いばや》共同代表・坂爪圭吾のブログです。

【CTS-東京】自暴自棄にはならないこと。

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北海道の定山渓温泉を経由して新千歳空港から関西空港に向かい、京都の出町柳で開催された対談イベントに出演した後に新潟県で日本海を眺め、そして、東京にはいった。昨夜は、東京の国立でトークイベントが開催された。「これが最後になるかもしれない」というアナウンスをしたら、当日、会場から溢れる程の人が足を運んでくれて、うれしかった。私は体調を崩していて、鼻水がどうしても止まらなかったために、ティッシュを鼻に詰めた状態で話すという醜態を晒していた。

家を持たない生活をはじめてから、もうすぐで二年の月日が経つ。家があった頃は、月に一度は風邪をひくような弱者だった私も、なぜか、家を持たない生活をはじめてからは一度も体調を崩したことがなかった。多分、緊張しているからだと思う。常に精神がギリギリの臨戦体制に置かれていて、野生の生き物のように神経は尖り、いい意味では感性が研ぎ澄まされている反面、悪い意味では「本当の意味で安らげたことがない」というような状態にある。

そして、いま、ほんとうに久しぶりに体調を崩している。身体が熱い。頭が朦朧としている。喉が痛い。咳が止まらない。それでも「何かを書きたい」という思いが強くあり、この欲求を言い換えると「悪い流れを断ち切りたい」という思いでもあるように感じている。最近の自分は、自分でも歯止めが効かないほどに調子が悪く、このまま行ったら自分に殺されてしまうような恐怖と攻撃的で虚無的な暴力性を覚えていた。

自分の中に「おとなの部分」と「こどもの部分」がある。おとなの部分は、非常におとなであるために、常に「様々なものと折り合いをつけて生きるということが、おとなになるということなんだよ」というようなことを言っている。正論だし、間違いはないし、まったくもってその通りである。しかし、私の中にはこどもの部分も確実にあって、こどもの部分は常に「全部嘘だ」と叫んでいる。こどもの部分は嘘に敏感で、表面的なものに敏感で、まるでこころがこもっていないものに対して敏感で、あれも嘘だ、これも嘘だ、あいつも嘘だ、こいつも嘘だ、全部嘘だ、というようなことを敏感に嗅ぎ取っている。

自分の中に矛盾がある。誰かといたいと思いながら、同時に、ひとりでいたいと思っている自分がいる。これだけ移動を続ける日々を送りながら、もう、何処にも行きたくないと思っている自分がいる。何かをしたいと思いながら、同時に、何もしたくないと思っている自分がいる。何処かに行きたいと思いながら、何処にも行く場所なんてないと思っている自分がいる。生きることを熱望しながら、同時に、死ぬことに憧れてしまう自分がいる。他者との接触を強く求めておきながら、同時に「ほっておいてくれ」と思う自分がいる。


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昨夜の国立市でのイベントで、来場者の方から「家がなくてさみしくなることはないのですか」というようなことを尋ねられた。私は「あります」と答えた。居場所が何処にもなくて街中を彷徨いながら途方に暮れることは頻繁にあるけれど、ただ、帰る場所がないということは、別にいまにはじまったことではなかった。家があった頃も、自分には居場所がないと思うことは頻繁にあった。さみしさを覚えることや虚しさを覚えることに、多分、家のあるなしは関係ない。大袈裟な言葉で言えば、人間が本来的に持つ『孤愁』のようなものがあるのだと思う。

国立市でのイベントを終え、帰り際に主催者のYさんと少しだけ話をした。Yさんとは古い付き合いになるので、最近の自分が抱えている弱さについての愚痴を吐いた。俺は弱い。すぐに逃げる。自分の中に、黒くて醜いどろどろとした何かがある。俺だってキツイんだよ、というようなことをわかって欲しくなる時がある。「怪物と闘うものは、その過程で自らが怪物と化さぬように心せよ。お前が長く深淵を覗くならば、深淵もまた、等しくお前を見返すのだ」というニーチェの言葉について、話をした。

Yさんは「最近の坂爪さんの言葉を見ていると、なんだか、坂爪さんがこのまま死んでしまうのではないのかと不安になったので、今回のイベントをお願いしたのです」と言ってくれた。この気持ちがほんとうにありがたかったし、多分、この気持ちによって私は救われたのだと思う。闇があるから光がある。自分が片方の極に走りそうになる時は、多分、もう片方の極を見落としている。自暴自棄にはならないこと。自分はどうしようもない矛盾を抱えた存在で、矛盾を抱えたまま、矛盾を超えていきたいと思っている。


人生は続く。

坂爪圭吾 KeigoSakatsume《ibaya》
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