いばや通信

ibaya《いばや》共同代表・坂爪圭吾のブログです。

あなたの悲しみに寄り添う。

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ゴミ置き場に捨てられていた食器を拾って、道端に咲いていた草花を活け、玄関に飾った。昨夜は、熊本在住の女性がはるばる熱海まで遊びに来てくれて、一泊して別れた。熱海での暮らしも10日間ほどの月日が流れ、その間、全国各地から50名近い方々が様々な手土産と一緒に訪れてくれている。優しいひとが足を運んでくれると、自分だけではない、この家も一緒に来訪を喜んでいるように感じている。

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築88年、6畳の和室と8畳の和室のニ部屋で構成されているこの家は、小さいけれども非常に愛らしく、暮らすほどに愛着が増していくのが分かる。必要な生活用品が、様々な方々から送られてくる。今日は、静岡と大阪から遊びに来てくれた男性達から、五キロの玄米と尺八をプレゼントしてもらった。周囲は山に囲まれているために、飲食店なども皆無で、金銭をまるで使っていない。完全に、貰いものだけで生活が成り立ってしまっている。

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玄関に野菜ボックスを設置した。近所の方々や、遠方から訪れて来てくれた方々が、自分の畑で収穫した無農薬の野菜をこの箱に入れてくれる。自分が食べきれない分は、その場にいる人達と共有している。この家に暮らし始めてから、気がつけば野菜と果物ばかりを食べている。頻繁に食べているものは味噌汁ばかりで、あれ、肉を食べていない。そして、肉を食べていないことに対するストレスが何もない。ストレスを覚えないばかりか、身体の調子も頗るよろしく、水を軽く流すだけで洗い物が簡単に終わってしまうので、洗剤がなくてもどうにかなる。ジャンヌダルク風に言えば、無意識の内に私はルナティックゲイト(ベジタリアンの門戸)まで連れていかれたのかもしれない。

食や健康に関する様々な本も届いている。およそ一年前に「不食(食べないでも生きることができる)」という考え方を知ってから、改めて自分の食生活を見直すようになった。誤解されると困るが、私は食べることが大好きだ。家のない生活を続けておよそ二年間で「家がなくてもどうにかなる」ということを肌感覚で実感した。それに加えて「食べなくてもどうにかなる」ということが分かれば、多分、強い。そして、強さとは「あってもいいけど、なくてもいい」という中庸の精神(執着が消えた状態)に宿るものであるような気がしている。


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引き続き療養生活を送っている私は、時間を見つけては外を歩くようにしている。熱海は坂道が多く、如実に足腰が鍛えられるのと同時に、今日、道端に咲いているタンポポを見つけた。海から吹き上がる風が気持ちいい。春だ。フランスの詩人が「喜びは分け合えば二倍になり、悲しみは分け合えば半分になる」というようなことを言っていた。素晴らしいものを見つけると、その素晴らしさを誰かと分かち合いたくなる。

優しさを与えているひとほど、優しさが必要になる時がある。


この世の中で一番惨めなことは、金を失うことでも、家を失うことでも、世間的な評価を失うことでも、一般的なレールを外れることでもなく、多分、自分にとって大切だと思うひとに、自分は何も力になることができないのだということを身を持って痛感させられることだ。いつも明るく周囲を元気にするような人でも、どうしようもない不安や孤独を抱えている時がある。優しさを与えているひとほど、優しさが必要になる時がある。

昔、東京の赤坂でバーテンダーの仕事をしていた時に、リンドウの花から作られたリキュールを使っていた。リンドウの花言葉は「あなたの悲しみに寄り添う」だと言う。この言葉が優しく、美しく響いた私は、適当な機会を見つけては勝手にリンドウのカクテルを作っていた。あなたの悲しみに寄り添う。この「寄り添う」という行為は、特別な何かを必要としない、短期的には効力を発揮しないとしても、必ず、何かの実を結ぶような気がしている。

自分には何もないと思う時でも、自分の存在と、自分の体温は確実に残されている。自分はここにいる。自分はあなたと一緒にいる。自分はあなたを見守っている。特別な行為ではない「日常的な存在」が、人間を根底から支えることがある。自分には何もできないとしても、生き続けることはできる。残された体温を伝えることはできる。自分が嫌いなものではなく、自分が好きなものに使ってこその命だ。自分が自分のままでいるということが、そのまま、誰かの力になることがある。


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人生は続く。

静岡県熱海市伊豆山302
坂爪圭吾 KeigoSakatsume
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